人事部門が取り組むべき「オープンな組織づくり」とは
生産年齢人口の減少による人材不足や働き方の多様化により、多くの企業では従業員の自律による生産性向上が課題となっています。そんな中、人事部門はどのような役割を果たせば良いのでしょうか。本記事では、従業員への情報共有を切り口に、人事部門が取り組むべきオープンな組織づくりについて考察していきます。
今、求められるオープンな組織とは
働き方や社内のコミュニケーションの在り方が大きく変化する中、今改めて求められているのは「オープンな組織づくり」ではないでしょうか。
変化の激しい時代において従業員に求められることは、これまでのように決められた枠組みの中で仕事をするだけではなく、正解のない課題に対して自己判断し、物事を自己解決して推進していく力です。
このような要素を従業員に求める上でポイントとなるのが、会社からの情報共有です。従業員は、会社や自部門が目指す方向性、会社の取り組みや制度について理解することで、自律的に判断し行動できるようになります。
知らない情報が多い状況では、組織の一員として求められる判断や行動ができないのも当然です。会社が知って欲しい情報が従業員に行き届いている、従業員が知りたい情報を適切なタイミングで知ることができる、すなわちオープンな組織であることは、変化に強い組織づくりにおいて、必須条件と言えるでしょう。
課題は企業のカルチャーや風土
それでは、オープンな組織づくりに取り組む上で、最大の課題は何でしょうか。多くの場合、企業のカルチャーや風土がネックとなっています。
安定したビジネスモデルの上に成り立ってきた、長きに渡る年功序列の時代では、会社も従業員も5年先、10年先の未来を見通すことができました。年齢によって役割が大別され、時が経てば自身の役割もある程度は予定通りに変わっていく。このような環境の場合、どうしても「余計なことは知らなくて良い」という風潮になりがちです。
その時々で必要な情報さえ持っていれば、自身の業務は成立するため、余計なことを知らない方がある意味では健康的な精神状態で、仕事に集中できるという見方もできるかもしれません。
しかし、変化の激しい今の時代においてはどうでしょう。
従業員に対して、これまで通り時間をかけて、これまで通りの理想の姿に成長してくれれば良いと言い切れる企業は、多くないはずです。むしろ、若手が持つ今の時代に合った感性を、会社や事業の成長に繋げたい、早期に裁量の大きな仕事を任せたいと考える企業の方が多いのではないでしょうか。
そのためには、情報をオープンにしていくことが必要です。従業員を子ども扱いせずに、「オトナ」として扱い、良い情報も悪い情報も可能な限り伝えていくこと、そしてどんな情報もフラットに受け入れ、前向きなコミュニケーションを取れる文化をつくっていくことが求められています。
情報共有とエンゲージメントの関係
情報共有の仕組み化は、会社全体が便利になることはもちろんですが、会社の情報に触れやすい環境をつくることで従業員エンゲージメント向上の底上げにも繋がります。
従業員エンゲージメントを向上する方法として、個々の特性を活かした配置転換や1on1の実施などを思い浮かべる方が多いでしょう。このような個別の施策に対して、情報をオープンにする仕組みづくりは、全体向けの施策と言えます。
情報が閉鎖的な状態は、会社と従業員の間に距離感をつくり、従業員エンゲージメントの低下に繋がりますが、様々な情報にアクセスしやすい仕組みをつくることは、オープンな組織にしたいという会社の姿勢を示すことでもあります。
【参考】従業員エンゲージメント向上の必要性とその理由
2020年9月にHR総研が実施した調査では、約8割の企業が従業員エンゲージメントの向上が必要だと回答し、その理由の上位として「優秀な人材の離職防止を図るため」「社員の生産性向上を図るため」「テレワークにより会社と社員の関係の希薄化に危機感を持つため」が選ばれました。多くの企業で従業員との関係性の向上が課題となっています。
※出典:HR総研「今後の働き方に関するアンケート」
従業員が「自己解決できる」仕組みづくりを
カルチャーや風土を変えようというのは一朝一夕でできることではありません。しかし、その第一歩として、社内の制度やルールなど、従業員が日々過ごす中で必要となる情報を適切なタイミングで能動的に得られる仕組みをつくることは、今すぐに取り組めます。
すでに多くの企業では、新しい制度や取り組みについて、全社説明会や社内ポータルへの掲載、社内報などを通じて「情報発信」をしています。しかし、それらの情報に従業員が本当に知りたいタイミングでアクセスできる環境を構築することもセットで考えることが重要です。例えば、特定の福利厚生について知りたい時、従業員はその情報に自分自身ですぐに辿り着けるでしょうか。
社内ポータルの情報が多すぎる、ファイルの格納場所が分かりづらい、掲載内容が古いなど、情報管理が属人的になっていると、従業員は情報に辿り着けず、人事部門に電話やメールで問い合わせをしてしまいます。
情報にアクセスさえできれば従業員が自己解決できた問題も、情報にアクセスできないことが原因で人に聞かなければ解決できない。これは従業員側の問題ではなく、自己解決できない環境にしてしまっている会社側に責任があります。
些細なことかもしれませんが、このような情報一つひとつが従業員に届く仕組みをつくることは、従業員の自己解決力を高め、会社全体の生産性を向上させます。
従業員から同じ問い合わせが何度も来る、便利な社内制度が活用されていない、従業員のモチベーションが低いなどは、情報が行き届いていないサインです。このようなサインが出ている企業は、従業員への情報共有の仕組みを構築し、オープンな組織への一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。