ITヘルプデスク問い合わせ専用チャットボットを構築し、
月間入電件数 30%削減に成功
ライオンズマンションシリーズをはじめとして、全国に快適な住まいを届けている大京グループはマンション開発に加え、戸建て開発、再開発など、あらゆる「住文化」に携わっている。株式会社大京(以下、大京)は、次のステージに進むべく、中期経営計画を2016年、策定した。“日本のまちに、活力を”というメッセージのもと、6つの重点テーマが設けられている。そのうちの1つが、機械化と無人化を進める「ICTの活用」だ。
導入背景
約6,000人の従業員が所属する大京グループが抱える社内ITヘルプデスクの課題
社員が問い合わせ先を把握していなかった
吉田氏は、チームのメンバーと現状の課題を洗い出した。その中で、社内からの問い合わせ対応業務において、社員が問い合わせ先を分からずに、担当ではない部署に問い合わせをしてしまい、たらい回しになっているケースがあるとの声が挙がった。さらに、ITヘルプデスクへの問い合わせ内容を確認したところ、全体の約30%がQAサイトを確認すれば解決できる内容であることにも気づいた。
ITヘルプデスクへの入電件数削減へ
大京グループのITヘルプデスクへの入電件数は、毎月約1500件にものぼる。このITヘルプデスクへの問い合わせ対応業務を改善することが、部全体の業務効率化ひいては会社全体の業務改善につながると考えたのだ。そして、具体策として挙がったのが、AIチャットボットの活用だった。こうして、大京の「AIチャットボットの導入」はスタートした。
コストと操作のしやすさからHiTTOを採用
AIチャットボットの導入にあたり、大京は最終的に3製品に絞り、比較検討を進めた。そして、2017年3月、HiTTOのトライアルをスタートした。
HiTTOの採用を決断した理由について、グループ情報システム部 担当部長 兼 システム開発課課長の川口 宏和氏(以下、川口氏)に話をお聞きした。
コストと工数を抑えて導入できる
「社内でAIチャットボットをいちから構築するとなると、高コストでハードルが高いのが現状でした。また、この手のものは、スモールスタートするのがベストと当初から考えており、HiTTOについては、時間をかけずに低予算でスタートできる点が好印象でした。」(川口氏)
誰にでも使いやすい管理画面
さらに、AIチャットボットは日々の学習データのメンテナンスが必要なため、管理画面が使いやすく、ITリテラシーが高くない担当者でも運用できるという点も、HiTTOの採用に至った理由のひとつだ。
活用方法
問い合わせ対応履歴とオペレーターのノウハウを融合し、自社で作成したAI学習データ
HiTTOの運用開始にあたり、必要となるのが「学習データ」だ。大京は、この学習データを自社で作成した。
質問/回答のQA形式の学習データ作成に際して、元データとして活用したのは、ITヘルプデスクの問い合わせ対応履歴だ。
「初回の学習データは、4人で分担して約1か月で1:1の質問と回答を作成しました。履歴は、問い合わせ内容そのものをテキスト化したものだったので、学習データの代表質問や利用者に表示する回答として使うには、言い回しなどを整える必要がありました。その後、1つの回答に対して、10〜15個の質問パターンを増やす際に、部員全員28人に割り振って作成しました。」(吉田氏)
ポイントは作成する学習データの対象を、全ての問い合わせ履歴ではなく、件数(頻度)が多く、個別のヒアリングが必要のない回答、109個に絞ってスタートしたことだ。一問一答に近い形式を想定し、チャットボットに適した業務範囲をしっかりと選定したことが、導入を成功させる第一歩となった。
数か月にわたる部門内検証 定期メンテナンスで精度を向上
こうして、2017年3月上旬、初稿の学習データが完成した。学習データの総数は、回答数109個、質問パターン2589行にのぼった。当時の回答精度について、吉田氏はこう振り返る。
「3月上旬に初めてHiTTOに学習データを投入したのですが、正直言ってあまり回答精度がよくなかったですね。そこで、作成した学習データを見直したところ、似たような質問が、それぞれ別々の回答に紐づいている箇所を見つけました。そのためユーザーからの質問の意図をうまく判断できず、回答精度が低くなっていると理解しました。そこで、回答を細かく分けすぎることをやめ、類似した回答を1つに圧縮し、似たような質問は同一の回答に導くように編集しました。その結果、精度の改善が見られました。」(吉田氏)
回答の見直しを進めた結果、1ヶ月後の4月上旬には、約600行を圧縮し、学習データの総数は約2000行になった。
その後、HiTTOのQA画面を全部員28人に公開し、部員が質問した履歴をもとに学習データのチューニングに取り組んだ。吉田氏は、管理画面で部員からの質問履歴を確認し、ユーザーからの評価が悪かったものや、誤答と判断できる履歴の質問を、正しい回答に紐付け直す作業を繰り返し行った。
チャットボットの使用用途を明確化して社内周知へ
その間、部門内での検証に加え、他部門にも協力を仰ぎ、検証メンバーを追加し最終検証に臨んだ。
他部門にHiTTOのQA画面を公開した際には、HiTTOの対応範囲ではない無関係の質問を問いかけるケースが度々発生し、ユーザーが「適した回答が表示されない=使えないチャットボット」というイメージを持つリスクに気がついた。
導入効果
ITヘルプデスクに関する月間入電件数30%削減
AIチャットボットを公開直後から利用してもらうための工夫
「この度、AIチャットボットを導入しました。まだまだダメなところもあるので、みんなで一緒に育てていきましょう!」というメッセージを社内イントラに掲載し、通知した。
さらに、社内イントラのTOP画面右上に、「チャットで質問」というバナーを新たに設置して導線を設けるなど、HiTTOの利用を促進するための工夫をした。
この結果、公開翌月となる8月のHiTTOへの質問件数は、265件と、全社公開直後にも関わらず予想を上回る利用数を記録した。質問数が最初から伸びた要因として、学習データの中身をITヘルプデスクへの問い合わせ件数が多いものを優先的に採用したことが大きいのではないかと、川口氏は話す。
その後もHiTTOへの質問件数は9月314件、10月354件にのぼり、着実に社内にチャットボットの活用が浸透し始めた。
同時に、ITヘルプデスクへの入電状況にも変化が見られるようになり、HiTTOの全社公開後は入電件数が約30%削減された。
このように大京は、社内ITヘルプデスク問い合わせ用のAIチャットボットを導入し、わずか半年で月間の入電件数 の大幅削減を実現し、問い合わせ業務の効率化を図っている。
「当初の削減目標も30%に設定していましたので、数字には納得しています。全社公開後、まだ3ヶ月ちょっとですが、一定の比率がHiTTOに置き換わっているので、確実に導入した効果は出ていると感じています。この数字は、ITヘルプデスクへの問い合わせがHiTTOに置き換わり、効率化できたという見方に加えて、これまでITヘルプデスクに聞きたかったけど聞けずにいた人がHiTTOに質問するようになったという、潜在的課題を解決できたという2つの見方ができると捉えています。」(川口氏)
全社公開から3ヶ月が経過した後は学習データのチューニングに費やす時間も大幅に削減し、週に5時間程度、担当者3名の持ち回りで実施している。その後着実に回答件数を増やしていただき、2023年1月時点では、利用数2,126件にも及んでいる。
一方、HiTTOの導入についてユーザー側はどのような印象を持ったのか、グループ経営企画部 広報・IR室 広報課 担当課長 堀口 友恵氏は、次のように答えてくれた。
体系化されたナレッジの活用を促進
「聞きたいことを入力すると自動で返ってくるので、ヘルプデスクに問い合わせるよりも気軽で、聞きやすいです。以前は、ヘルプデスクから教えてもらったドキュメントを探す作業が結構面倒でした。でも、HiTTOの場合は質問すると該当のドキュメントのURLを教えてくれるので、クリックすれば終わり、解決までの道筋が短くて楽になったと感じています。」(堀口氏)
社内にドキュメントがあっても、保存場所が分からず有効活用されていないケースは、大京に限らずどの企業にも起こりうる課題だ。HiTTOのようなAIチャットボットを活用することで、社内に蓄積されたノウハウやコンテンツを社員が有効活用できる環境に再構築できる可能性は高い。
また、ITヘルプデスクは対応時間が限定的であることが多い。大京の場合も、対応時間は平日9時〜18時。対応人数は繁忙期などを除き基本的には2人体制で、従業員 約6,000人の問い合わせに対応している。しかし、土日祝日は1名のみの体制である。そのため、曜日や時間帯により、解決までに時間がかかるケースも発生する。
チャットボットは曜日を問わず、24時間365日、自動で瞬時に応答するため、ヘルプデスクの効率化と同時に、対応時間の拡大や応対速度の改善を実現し、ユーザー側の生産性向上にも繋がっている。
見えづらいAIチャットボットの投資対効果も、
HiTTOのレポート機能で見える化に成功
大京は、ITヘルプデスクへの入電件数とあわせ、HiTTOのレポート機能を活用し、AIチャットボットHiTTOのROI(投資対効果)の可視化に取り組んでいる。
回答精度向上の推移を数値から確認
HiTTOのダッシュボード機能では、「利用数」、「回答表示率」、「正答率」という3つの指標で、回答精度の推移を数値で確認することが可能だ。大京では全社公開以降、「回答表示率」と「正答率」は、約80%を維持している。
チャットボットというサービスの特性上、質問された内容全てに完璧な回答を返すことは極めて困難だ。吉田氏は現実的な数値として、ユーザーからの質問の8割以上に回答でき、さらにその7割以上を正答で返せているこの状態には満足していると話す。
実際、HiTTOを利用しているユーザーの反応もポジティブな声が多いことから、「80%」という数値の妥当性を裏付けているのだろう。
約3ヶ月に1回のペースでバージョンアップ
さらに、川口氏は経営層の視点から、ダッシュボード機能は有効であると語る。
「回答の有効性を示す数値として、確信度がありますが、経営層に確信度の仕組みを説明したところで、理解を得ることはなかなか難しいです。また、確信度が高くても回答が間違っているケースもあるので、それだけを指標にすることは正直、厳しいと課内でも話していました。ユーザーからの評価を元に、正答率を自動で数値化してくれるHiTTOのダッシュボード機能は非常に重宝しています。また、この手のITサービスは、リリース後になかなか機能強化されないケースも多い中で、HiTTOは約1~2か月に1回のペースでバージョンアップもあり、機能改良のスピードには感心しています。」(川口氏)
大京は今後も、ITヘルプデスクへの入電件数を減少させ、HiTTOへの質問件数が増やし、かつ正答率95%を維持しつづけることを目標にしている。
今後の活用方法
総務人事問い合わせチャットボットを2つ目として構築
将来はお客さま向けの構築も視野に
HiTTOでは1環境で、複数のチャットボットを作成することが可能だ。大京は、すでに2つ目のAIチャットボットを構築している。それは、人事総務問い合わせ用だ。
「封筒を買いたいときどうすればいい?」「名刺がほしいんだけど」といったような、物品や消耗品を購入するときの問い合わせをHiTTOで対応する、というものだ。
培ったノウハウを他部門に展開
AIチャットボットのROI(投資対効果)を今後さらに高めていく上でも、ITヘルプデスク業務の問い合わせで培ったノウハウを、他部門に展開できた効果は大きいと川口氏は語る。
「今後もITヘルプデスク業務を成功事例として、社内で問い合わせ業務を担当している他部署へ、拡げていきたいと考えています。また、我々はお客さまにサービスを提供しておりますので、将来的にはお客さまのお悩みに自動で回答できるようにしていきたいですね。」(川口氏)
業界に先駆けてAIを活用する大京グループ。働き方改革が世の中で叫ばれる中、社員の働き方をサポートするなど、AIチャットボット HiTTOにかける期待は大きい。お客さま公開を視野に、これからもHiTTOはあらゆる問い合わせ業務をサポートするツールとして、大京グループの事業発展を支えていきたい。